2018年6月10日日曜日

第2回 音楽の起源

第2回 音楽の起源


人間は音楽をいつ獲得したのでしょう?

そもそも音楽の始まりは、言葉よりも先か後か、古今東西さまざまな学説、議論がありました。
新約聖書にある「はじめにことばありき」というのはキリスト教徒でなくても聞いたことがある言葉ですが『この「ことば」というのはイエス・キリストのことを指す』(神学博士 吉村博明宣教師)ということだそうです。したがって順番の話とは関係ないことになります。
では「音楽と言語、どっちが先にできたの?」という素朴な疑問に対して明快な答えはあるのでしょうか。

今回は、英レディング大学人間環境科学部長で考古学者、近年は人類の心の進化に焦点をあてた認知考古学の分野で目覚ましい活躍を見せている スティーブン・ミズンの本歌うネアンデルタール人 ~音楽と言語から見るヒトの進化」(2006年)に沿って音楽の起源を考えていきます。
ミズンは「音楽は進化の過程でことばの副産物として誕生した」という、これまでの主要な考え方に異論を呈します。


      
Professor Steven Mithen       





ここで再度、定義の確認です。
音楽とは:民族音楽学者プルーノ・ネトルは「音楽は言語の埒外にある、音による人間のコミュニケーション」 と定義しています。
言語とは:一方、「言語は語彙目録(合意された意味を持つ単語集)と文法(単語を組み合わせて分を作るための規則)を持つコミュニケーション体系」とミズンは定義しました。これらをベースにこれからの考察が進みます。

 民族音楽学者ジョン・ブラッキングは『人間の音楽性(1973)』の中で「音楽は人間の生得的・普遍的な性質だ。音楽は時代も文化も超越する。モーツァルトやベートーベンの時代に人々を興奮させた音楽は、その文化を共有していない私たちも興奮させる。音楽に異文化間コミュニケーションの可能性があることは、私たちもみずから体験している。これは音楽の深層構造のレベルに、表層構造には現れないような人間の精神に共通する要素があることと関係があるに違いない。」と主張しています。
音楽と言語は「どちらも発声、動作、筆記によって表現でき、どちらも豊かな表現法を持った組み合わせシステムであり、・・・どちらのコミュニケーション体系にも身振りや体の動きがある。」という共通の特徴を持っている一方で「両者は違いも大きい。話し言葉はシンボルからなり、文法規則によって完全な意味を与えられて情報を伝達する。定型表現はあるものの、言語の発達は構成的(compositional)だ。一方、音楽のフレーズや身振り、身体言語は全体的(holistic)だ。「意味」はフレーズ全体が一体となって生じる。 」「話し言葉は指示的で操作的だ。世の中の物事を指し示す発話もあれば、聞き手に特定の考え方や行動を促す発話もある。一方、音楽は同調によって感情や身体の動きを誘導するため、おもに操作的だ。」と述べています。

同じように声や体を使うとはいえ、全体で意味を持たせる(Holistic)のが音楽であり、単語の組み合わせで無限の意味を持たせることのできる(Compositional)な言語とは本質的に異なるものだという考えなのです。

2018年、ハーバード大学のサムエル・メール教授とその研究チームは、60カ国の750人を対象に行った研究で「聞いた音楽が過去に触れたことのないものであっても、その曲が伝えようとしている本来の目的(踊る、赤ちゃんをあやす、死の悲しみ、など)を大半の人は感知できる」ということを明らかにしました。この研究も、音楽が言語や国境を超える性質を持っていることを示唆しています。


では、この音楽と言語を人間はどのように獲得してきたのでしょうか。それを人類の歴史という視点からと、ヒト個人の生まれてからの発達という視点から、それぞれ見ていくことになります。生物では個体発生は系統発生を繰り返す(「反復説」あるいは「メッケル・セールの法則』とも呼ばれる。Wikipedia参照)と言いますが、それが音楽と言語においても当てはまるのか、見ていきましょう。





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