2018年6月13日水曜日

第6回 二足歩行と音楽

第6回 二足歩行と音楽


人類学教授レスリー・アイエロは「二足歩行は、これまでより高度な感覚運動制御を行うというだけで、より大きな脳と複雑な神経システムを必要とする。こうした理由で進化した大きな脳がこんどは別の目的にも使われるようになった可能性がある」と言っています。
人が二足歩行できる理由(セントラル接骨院のウェブサイトより)

移動の役割から解放された手が、大きく複雑になった脳と協調して道具を作り、使うという重要な役割を果たすようになります。食料を採取する、木の実をむいて食べる、といった役割だけでなく、木の枝や骨を叩いたり手をつないで喜びを表現したかもしれません。
また、二足で「歩く」ためには一定のリズムをキープすることが重要です。音楽の最も基本的な要素であるリズム(感)の進化も、二足歩行が大きなきっかけになったことでしょう。ミズンも「二足歩行は「Hmmmm」(後述)のリズムと動きの役割を桁違いに増加させた」と評価しています。

女性の場合、直立二足歩行の結果、骨盤が狭くなり産道も細くなりました。これに対処するため赤ん坊はほとんど未熟な状態で生まれます。シアトルの児童心理学者エレン・ディサナヤケ 未熟な新生児を成長させるために、親子の相互作用としてIDS(infant directed speech)の音楽面が進化したと推測しています。

「ホモニド」とは、現代人と同じ霊長目ヒト科に分類される生物を指します。180万年前までホモニドは解剖学上も行動面でも非常に「類人猿的」でした。したがってホモニドの音声、身振り表出は、単語の組み合わせではなく完結したメッセージだったという意味で全体的(Holistic))なままだったり、他者に世界の物事を伝えるためではなく他者の行動を操作(Manipulative)するために用いられたと考えられます。

こうした特徴をスティーブン・ミズンは総称して
 「 Hmmmm と呼んでいます。

・全体的(Holistic)  
・多様式的(multi-modal)
・操作的(manipulative) 
・音楽的(musical)

初期ホモニドでは、Hmmmmすべてが統合されており、その結果、今日の非ヒト霊長類のコミュニケーションより複雑で、一方ヒトの言語とは全く異なるコミュニケーション体系だったのではないかという仮説を述べています。

*マルチモーダル:人間は外界からの情報をより確かに知覚するために,五感や,体性感覚(平衡感覚,空間感覚など)といった複数の感覚の情報を組み合わせて処理しています.このような情報処理をマルチモーダル情報処理といいます(東北大学先端音情報システム研究室

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