2018年6月13日水曜日

第7回 集団活動としての音楽

第7回 集団活動としての音楽

音楽を使えば「周囲の人を操作したり、自然界について伝えたり、配偶者になりうる相手に自分の能力を宣伝したり、自分の子供の認知・感情の発達を促したり」できます。しかしこれらはいずれも、現代社会で音楽が多くの場合、集団活動になっている理由を説明できません。
人類が生き残ってきた大きな原因に集団活動があげられますが、音楽は自己と他者を一体化し、集団としてのパワーを強化する作用を果たしているのではないでしょうか。ミズンは「共同で音楽を作る人たちは、自分たちの心と体を共通の感情に成形し、そうすることで自己同一性が消えると同時に他者と協力する能力が増す」と考えました。例えば、輪になって歌い踊るというのはどの文化にも存在する集団活動ですが、それは初期ホモニドの時代から我々が持ち続けている特性なのでしょう。


Aztec round dance for Quetzalcóatl and Xolotl
集団での音楽作りによって”自己意識があいまいになって踊りを共有する全員の仲間意識が強調された”状態になることをウィリアム・マクニールは”境界の消失”と呼んでいます。
こうした感情の起源は”私たちの祖先が野生の危険な動物を狩りに出かける前や帰ってから焚火の周りで踊っていた昔にある。狩りを行い、踊りによって協調性を高めた者の方が繁殖成功度が高く、その能力が遺伝的に伝承され、やがて現代に多様な形で利用されるようになった。"と考えています。


私たちホモ・サピエンス種は30万~50万年前のどこかの時点でネアンデルタールと祖先を共有し、そこから分かれて進化したらしいと言われています。

(「歌うネアンデルタール人」 p.379より作成 元出はジョン・ブラッキング)

ホモニドのアフリカから欧亜への拡散は不慣れな土地へ入ることを意味し、そこで新しい種類の動植物に出くわし、水や薪や石などの資源がある場所を見つけ出して、その情報を他者に伝えなければなりません。初期人類の拡散には、こうしたコミュニケーションが不可欠だったはずです。初期人類は「集団の一部として協力して働く」ことによって新しい環境に適応していったのでしょう。

生命誌ジャーナル アフリカから世界へ ヒトの拡散

0 件のコメント:

コメントを投稿

第2回 聴覚の特徴

第2回 聴覚の特徴 私たちが日常生活の中で得る全情報量の中で「視覚からのものが約7割であるのに対して、聴覚からのものは約2割」と言われています。しかしこのことは聴覚が視覚の3分の1の働きしかないということではありません。車を運転しながら音楽やニュースを聞いたり、駅で電車の...